さらっと読める医療倫理の優れた入門書「ナチスのカード」、「すべり坂論法」、「救助原則」、「非同一性問題」・・・と医療倫理でしばしば登場する話題が分かりやすく論じられている。2時間程度の「医療倫理学ツアー」で初心者の読者をも充分楽しませてくれる。著者は、医療倫理学を、合理的な方法で常識を疑い批判的な反省を行う学問としている。そして、性急な回答を求めるのではなく、考え方の筋道を吟味することに重点を置いている。
最終章は、医師が16歳未満の少女に対して親の同意なしに経口避妊薬を処方できるかについて、イギリスの貴族院(最高裁)5人の判事がそれぞれどう判断したかを記載して終えている。その中でも、最後に取り上げられているブリッジ(卿)判事の見解が興味深い。「社会的・倫理的論争の問題と深く関係している場合は、裁判所はできる限り謙抑的にその権限を果たすべきであり、権威をもって話す正当な資格の無い領域において、命令口調で意見を表明することを避けるべきだ。」
医療従事者のみならず法曹関係者にもお勧めしたい教養書である。